a beautiful day for diffusion of a death by exposing it to the elements.
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すみません、先に謝ります。今、落乱SNSのほうで入学バトンという、オリキャラ作りバトンみたいなものが流行っていまして、それで生んだウチの子と、お知り合いの子を絡ませて作ったSSをアップしてみます。誰もワカンネェよって話ですが。
晩夏の満月が天頂にさしかかろうとする、子の一刻頃。
弦馬は寝床で、しめった草の匂いとともに風に乗ってやってくる、たどたどしい小笛の音を聞いた。
最初は、無視しようと思った。明日は早いのだし、身勝手な酔狂に付き合ってなどいられるものか。そう思って、暑いのも我慢して掛け布団に頭を突っ込んだが、笛の音はなかなか止まない。
それどころか、しばらくすると音色の主は、なかなか顔を出さない弦馬を挑発するように、わざと狂わせているとしか思えないような調子で、素っ頓狂な音色を撒き散らし始めた。
「なんだ、あれ」
隣で寝ていた同室の馬喰幸十が目を覚ましたらしく、くくっと笑いながら言った。
突然、弦馬はガバっと起き上がると、寝間着を脱ぎ、上半身は裸のまま、四幅袴だけを穿いた。
そのまま部屋の扉を開けようとしたが一瞬手を止め、ちょっと悩んでから部屋の中に戻り、立てかけてあった琵琶を無造作に背負った。
「いってらっしゃーい」
幸十が、今にも眠りに落ちそうなくぐもった声を、出て行く弦馬の背にかけた。
四年長屋の廊下を渡って裏庭に出る。草鞋を履いて一歩表に足を踏み出すと、月の光であたり一面、刷毛で銀色を刷いたかのようだった。
広いとは言えない裏庭の、夜露に濡れた雑草を踏み分け、耳を澄ましながら、音のするほうに向かって歩く。
「こっちだ、弦馬」
と声を掛けられて、見上げると、三年長屋の屋根の上で弥業部寿丸がニっと笑っていた。ヘタクソな笛を真夜中に聞かされて、さぞ迷惑だっただろう、と弦馬は三年が哀れになった。
「上がってこいよ」
と寿丸は手招きしたが
「お前が降りてこいよ」
と弦馬はムっとした表情で返した。
「なんで」
「琵琶抱えて登るのカッタりぃんだよ」
(あぁ、こいつ意外と面倒くさがりだったんだよな)
と、寿丸は、弦馬が床の中でなかなか上になりたがらないことを思い出して、自分のほうが屋根から飛び降りた。
実際には。
琵琶が重いからなんてのは口実に過ぎない。三年に噂されて、寿丸との仲がタカ丸に伝わるのを避けたかったからだ。タカ丸とは寿丸としているような「こと」はしていないし、そもそも憧れの先輩というだけの人でしかないが、何となく、知られたくない気がする。
寿丸は、自分がタカ丸をそんなふうに思っていることは知らない。と思う。少なくとも、今は。
でも、カンの鋭い寿丸のことだ。そう遠くないいつか、きっと気付くだろう。そのとき、寿丸は……
(たぶん、気が付かないふりをするだろうな)
なぜか、そんな確信が、弦馬にはあった。
確信だが、根拠はなかった。
小笛は以前、弦馬が寿丸にやったものだった。用具委員の仕事をさぼって、手慰みに作ったのだが、寿丸が音色を気に入って、自分も吹いてみたいと言い出したので、丹精をこめて作ったものでもないし、気軽にやってしまった。
吹き方を教えると寿丸はすぐに飲み込んで、ことあるごとに吹くようになり、しばらく経つと、たどたどしいながらも弦馬の琵琶や筝とも合わせられるほどになった。
だからこそ、あんな音色をわざと出していたことに、胸がざわついた。
先を歩く寿丸の首の傷を後ろから見ながら、弦馬は心の中でつぶやく。
(独占欲。)
あのとき感じたざわつきの正体は、この感情にいちばん近い気がした。
音の乱れの底にあって弦馬を長屋から引きずり出したものは、猛々しさと小憎たらしいような静けさと、情念と少しの狂気が同居した、秘めやかな「色気」だった。
他の誰にも、あの乱れを、聞かれたくない、取られたくない。
自分のことは棚に上げているけれど。
後ろからいきなり、傷に噛み付いてやりたい、と、弦馬は思った。いつもみたいに。
二人は生徒長屋を離れ、食堂に向かった。食堂の脇には、屋根に登るための梯子がいつも置かれていたからだ。屋根上に置いた防火用の貯水桶を、生徒がいな いときでも、オバちゃんがひとりで持ち運べるようにと用意されたものだ。梯子を使えば琵琶を背負ったままでも、さしたる手間なく上ることができる。
「何もわざわざ屋根に上らなくても」
「せっかくの満月なんだから、勿体ないだろ」
「バカと煙は高いところに登りたがるっていうアレか」
「じゃ俺がバカになるから、お前、煙な」
「ワケわかんねぇよ」
二人は軽口を叩きあいながら、慣れた、軽やかな足取りで、あっという間に梯子を上りきった。
屋根からあたりを見下ろすと、学園全体が、白く浮かび上がったように月光に照り映えている。暑さの中にも涼気を帯び始めた風がさぁっと通り抜けると、裏庭や校庭の雑草の野原が水のようにさざめいて、その部分はまるで大きな水たまりのように見えた。
二人は屋根に座って、しばらく無言でその風景を見ていたが、やがて寿丸は小笛に唇を近づけ、溜息をつくような仕草で息をふぅっと吹き込んだ。伸びやかな高音が、満月がこうこうと照らす夜空にするすると舞い上がっていく。
弦馬はそれに合わせて琵琶を弦を、撥(ばち)でそっと撫でるように弾いた。最初は相手の様子を見て調子を合わせるような、硬い手つきと音だったが、ほどなく遠慮や思慮というものが一枚一枚剥がれていき、すぐに激しく、むせび泣くような音になった。
手つきこそたおやかだったが、その音には、まるで小笛の音を覆い隠してやろうとするような、鬼気迫るものがあった。
好きだ、という単純な気持ちの高ぶりだとか
いい匂いだ、という単純な心地よさだとか
隣に誰かがいるという、単純な甘やかさだとか。
それらのうつくしさばかりをなぞっていられるうちは、良かったと思う。
そういったものがひっそりともたらした、茫漠としたねじれに触れずにいられたうちは。
弦馬はふと、『経政』の一節を思い出した。
あら恨めしやたまたま閻浮の夜遊に帰り。心を延ぶる折節に。また瞋恚の起こる恨めしや
経政のように、執念や執着に身を焦がすことを恥じらって、消えてしまったら楽になれるのだろうか。
弦馬は琵琶を弾く手を動かしたまま、ちらりと寿丸を見た。寿丸もその視線に気が付いて、こちらを見た。
まだ、消えてしまうには、少し早いような気がする。
注※
琵琶は実際にはかなり重いらしいので、ここ出てくるものは弦馬が勝手にカスタマイズした小型のものだということにしといて下サイ。うっわぁぁ。
弦馬は寝床で、しめった草の匂いとともに風に乗ってやってくる、たどたどしい小笛の音を聞いた。
最初は、無視しようと思った。明日は早いのだし、身勝手な酔狂に付き合ってなどいられるものか。そう思って、暑いのも我慢して掛け布団に頭を突っ込んだが、笛の音はなかなか止まない。
それどころか、しばらくすると音色の主は、なかなか顔を出さない弦馬を挑発するように、わざと狂わせているとしか思えないような調子で、素っ頓狂な音色を撒き散らし始めた。
「なんだ、あれ」
隣で寝ていた同室の馬喰幸十が目を覚ましたらしく、くくっと笑いながら言った。
突然、弦馬はガバっと起き上がると、寝間着を脱ぎ、上半身は裸のまま、四幅袴だけを穿いた。
そのまま部屋の扉を開けようとしたが一瞬手を止め、ちょっと悩んでから部屋の中に戻り、立てかけてあった琵琶を無造作に背負った。
「いってらっしゃーい」
幸十が、今にも眠りに落ちそうなくぐもった声を、出て行く弦馬の背にかけた。
四年長屋の廊下を渡って裏庭に出る。草鞋を履いて一歩表に足を踏み出すと、月の光であたり一面、刷毛で銀色を刷いたかのようだった。
広いとは言えない裏庭の、夜露に濡れた雑草を踏み分け、耳を澄ましながら、音のするほうに向かって歩く。
「こっちだ、弦馬」
と声を掛けられて、見上げると、三年長屋の屋根の上で弥業部寿丸がニっと笑っていた。ヘタクソな笛を真夜中に聞かされて、さぞ迷惑だっただろう、と弦馬は三年が哀れになった。
「上がってこいよ」
と寿丸は手招きしたが
「お前が降りてこいよ」
と弦馬はムっとした表情で返した。
「なんで」
「琵琶抱えて登るのカッタりぃんだよ」
(あぁ、こいつ意外と面倒くさがりだったんだよな)
と、寿丸は、弦馬が床の中でなかなか上になりたがらないことを思い出して、自分のほうが屋根から飛び降りた。
実際には。
琵琶が重いからなんてのは口実に過ぎない。三年に噂されて、寿丸との仲がタカ丸に伝わるのを避けたかったからだ。タカ丸とは寿丸としているような「こと」はしていないし、そもそも憧れの先輩というだけの人でしかないが、何となく、知られたくない気がする。
寿丸は、自分がタカ丸をそんなふうに思っていることは知らない。と思う。少なくとも、今は。
でも、カンの鋭い寿丸のことだ。そう遠くないいつか、きっと気付くだろう。そのとき、寿丸は……
(たぶん、気が付かないふりをするだろうな)
なぜか、そんな確信が、弦馬にはあった。
確信だが、根拠はなかった。
小笛は以前、弦馬が寿丸にやったものだった。用具委員の仕事をさぼって、手慰みに作ったのだが、寿丸が音色を気に入って、自分も吹いてみたいと言い出したので、丹精をこめて作ったものでもないし、気軽にやってしまった。
吹き方を教えると寿丸はすぐに飲み込んで、ことあるごとに吹くようになり、しばらく経つと、たどたどしいながらも弦馬の琵琶や筝とも合わせられるほどになった。
だからこそ、あんな音色をわざと出していたことに、胸がざわついた。
先を歩く寿丸の首の傷を後ろから見ながら、弦馬は心の中でつぶやく。
(独占欲。)
あのとき感じたざわつきの正体は、この感情にいちばん近い気がした。
音の乱れの底にあって弦馬を長屋から引きずり出したものは、猛々しさと小憎たらしいような静けさと、情念と少しの狂気が同居した、秘めやかな「色気」だった。
他の誰にも、あの乱れを、聞かれたくない、取られたくない。
自分のことは棚に上げているけれど。
後ろからいきなり、傷に噛み付いてやりたい、と、弦馬は思った。いつもみたいに。
二人は生徒長屋を離れ、食堂に向かった。食堂の脇には、屋根に登るための梯子がいつも置かれていたからだ。屋根上に置いた防火用の貯水桶を、生徒がいな いときでも、オバちゃんがひとりで持ち運べるようにと用意されたものだ。梯子を使えば琵琶を背負ったままでも、さしたる手間なく上ることができる。
「何もわざわざ屋根に上らなくても」
「せっかくの満月なんだから、勿体ないだろ」
「バカと煙は高いところに登りたがるっていうアレか」
「じゃ俺がバカになるから、お前、煙な」
「ワケわかんねぇよ」
二人は軽口を叩きあいながら、慣れた、軽やかな足取りで、あっという間に梯子を上りきった。
屋根からあたりを見下ろすと、学園全体が、白く浮かび上がったように月光に照り映えている。暑さの中にも涼気を帯び始めた風がさぁっと通り抜けると、裏庭や校庭の雑草の野原が水のようにさざめいて、その部分はまるで大きな水たまりのように見えた。
二人は屋根に座って、しばらく無言でその風景を見ていたが、やがて寿丸は小笛に唇を近づけ、溜息をつくような仕草で息をふぅっと吹き込んだ。伸びやかな高音が、満月がこうこうと照らす夜空にするすると舞い上がっていく。
弦馬はそれに合わせて琵琶を弦を、撥(ばち)でそっと撫でるように弾いた。最初は相手の様子を見て調子を合わせるような、硬い手つきと音だったが、ほどなく遠慮や思慮というものが一枚一枚剥がれていき、すぐに激しく、むせび泣くような音になった。
手つきこそたおやかだったが、その音には、まるで小笛の音を覆い隠してやろうとするような、鬼気迫るものがあった。
好きだ、という単純な気持ちの高ぶりだとか
いい匂いだ、という単純な心地よさだとか
隣に誰かがいるという、単純な甘やかさだとか。
それらのうつくしさばかりをなぞっていられるうちは、良かったと思う。
そういったものがひっそりともたらした、茫漠としたねじれに触れずにいられたうちは。
弦馬はふと、『経政』の一節を思い出した。
あら恨めしやたまたま閻浮の夜遊に帰り。心を延ぶる折節に。また瞋恚の起こる恨めしや
経政のように、執念や執着に身を焦がすことを恥じらって、消えてしまったら楽になれるのだろうか。
弦馬は琵琶を弾く手を動かしたまま、ちらりと寿丸を見た。寿丸もその視線に気が付いて、こちらを見た。
まだ、消えてしまうには、少し早いような気がする。
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琵琶は実際にはかなり重いらしいので、ここ出てくるものは弦馬が勝手にカスタマイズした小型のものだということにしといて下サイ。うっわぁぁ。
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ごんファイ
一. 文章を書いて生きています。
一. 日本史から入ったタイプなので、落.乱、忍.た.ま以外のアニメ、マンガ、ゲームの話にはついていけないことが多いです。申し訳ない!
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