a beautiful day for diffusion of a death by exposing it to the elements.
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俺=きり丸です。んで、4年になってます。
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蝉時雨が頭上から礫のように一面に降りしきる中を、俺は一人、馬を走らせていた。体じゅうから汗が滲み出てはとめどなく流れ落ちていく。くすんだ紫色の衣服はすでにぐっしょりと濡れ重くすらなっていたが、気にしている場合ではない。
夏前から始まった長丁場の任務だったが、関所を通るのにずいぶん長い間手間取ってしまい、すでに予定していた帰還日よりも、だいぶ遅れている。
途中の戦場跡で拾った、文字通りどこの馬の骨とも知れない馬に、餌をやり、水をやって機嫌をとり、俺は忍術学園に向けてひた走っていた。
自分以外の4年は組の連中が戦忍として駆り出されていた戦が、無残としか言いようのない様相を呈し、こちら側の完敗で終わったということを、数日前に耳にした。
は組の中で俺だけは機転を買われ、戦忍でなく間諜として他国に赴いていたのだが、万が一、友をすべて失うような状況にでもなっていたらと思うと、それを身の幸いと思うこともできなかった。
自分が一本の矢と化したかと思えるほど苛烈に馬を走らせ、真夏の熾烈な陽光の中を突き抜けてゆくと、とうとう忍術学園の門が見えた。
馬を校門の前に止め、校内に飛び入ると、ふっと、あたりが静寂に包まれた気がした。蝉時雨は先ほどまでと同様、止むことなくあたりに降り注いでいるのだが、人や、生き物の気配がない。
まるで、学園全体が息を止めているかのように、しんとしている。
俺は走って4年長屋に向かい、は組の各部屋を見て回った。
ひとつひとつに顔を突っ込んで覗き込むと、それぞれ書物や武具が積み重ねられていたり、机が端に寄せられたりしている。
しばらくの不在は感じ取れるものの、再び主が戻ることを待ち望む顔で整然と並べられているそれらを見て、まずはほっとした。どうやらみんな、少なくとも件の戦からは戻ってこられたようである。
俺はそのまま、長屋のいちばん端にある、俺と乱太郎としんべヱの部屋に向かった。どういう事情でみんなが不在なのかはわからないが、まずは着物を脱ぎ、井戸水を浴びて、少し休みたい。
しかし、慣れ親しんだ戸を開けて、唖然とした。ここにだけ、他の生徒の部屋にはあるものが、何もないのだ。机も、書物も、手箱も、屏風も、箪笥も、棚も、その他、一切かっさいのもの……生活するのに必要なすべてのものが。
無限に広がっているようにすら見えた空虚な空間を目の前にして、俺はへなへなと座り込んでしまった。この状況が意味することはひとつしかないように思えた。
乱太郎としんべヱは、ここに戻って来なかったのだろう。そして、なかなか連絡がつかなかった俺も、死んだものと思われたのかもしれない。
向こうから、ギィ、と、廊下がきしむ音がした。振り向くと、そこには乱太郎が、青い顔をして立っていた。目に、涙が溜まっていた。
「乱太郎……」
俺は溜息と一緒に魂まで吐き出してしまうのではいかと思うぐらい、深く弱々しい溜息をつきながら、呟いた。
あぁ、もう夏休みなんだ。
それで、
もうお盆なんだ。
乱太郎はきっと、学園に帰ってきたのだろう。
目から、涙が溢れ出してくるのがわかった。悔しさと悲しさがめちゃくちゃな嵐のように胸をよぎったが、しかしそれは、意外にもすぐに収まり、1年坊主だったときの春の日差しのようなあたたかさにとってかわった。
ユーレイでもいい。こうしてもう一度会えたのなら。そう思えたからだ。
その夜俺たちは、食堂に濁り酒があったのをくすねてきて、何もなくなった部屋に明かりを灯し、杯を交わした。乱太郎は言葉は少なく、何かというと俯いて息を詰まらせる。
泣きたいのはこっちも同様なのだが、自分が死んで泣いている相手を前に、それ以上にわんわん泣くのも気が引けた。だから俺はできる限り笑って、酒を飲んだ。
ふと横を見ると、部屋の端に、胡瓜に箸を差してできた馬と、茄子でできた牛が並べて置かれていた。
お盆の日、死者は胡瓜の馬に乗って帰ってきて、茄子の牛に乗って戻っていくという。
誰が作ったのだろう。さっき見たときには気がつかなかったのだが、きっと見落としていたのだろう。乱太郎はこれに乗って帰ってきたのだろうか。
やがて、東の空がしらじらと明るみを帯び始めた。酔いの回った頭で、俺は、あれ? と思う。
死者の霊は、生まれ育った場所に帰るのではなかったか。だったら、乱太郎には家があるはずだろう。
乱太郎は、なぜ学園にいるんだ?
おかしい。
俺は何か、大事なことを忘れていやしないか。
「きりちゃん」
乱太郎の声で、俺はふと我に返った。自分のほうを向いているのではない視線の先を辿ると、長屋に面した裏庭に、黒々とした茄子のような毛並みの牛が凛とした様子で立って、俺をじっと見つめていた。
あぁ。
死んだのは俺のほうだったのか。
乱太郎は知っていたんだ、戦で家を焼かれた俺には、ここしか帰る場所がないってことを。
だから夏休みだというのに家にも帰らず、ここで、胡瓜の馬と茄子の牛を作って、待っていてくれたのだろう。
牛はゆったりとした優雅な足つきで、俺のほうに近づいてきた。さぁ、残念ですが、もう時間ですよ、とでも言いたげな、賢そうな目元だった。
俺は杯を置いて、立ち上がった。
「夏休みになったら、みんなで川に釣りに行こうって約束していたっけ。約束が守れなくて、ごめんな」
俺はまず、別れる前にそれを謝らなければいけないと思った。たぶん、それが俺たちが交わした最後の約束だったからだろう。あれは確か、六月だったか。
長引く戦になりそうだけれど、生きて帰ってこよう、二人とも口には出さなかったけれど、そういう意味を裏に含んでいた。
「仕方がないよ」
乱太郎は物憂げな夏の風が吹きぬけたかのように、寂しそうに相好を崩した。
「この部屋はね、しばらくこうしておいてもらうことにしたんだ」
「じゃ、お前今、誰と同室なんだ」
「庄左ヱ門と伊助。しんへヱは虎若と団蔵の部屋にいる」
「そっか、あいつ、あの熱血コンビについていけるのか」
本当はこんなことが言いたいんじゃなかった。言いたいことは、もっとほかにたくさんあった。たぶん、乱太郎にもあっただろう。
でも、ぜんぶ胸にしまった。
お前はお人好しだから心配なんだよ足の速さですべてが乗り切れるなんて思うなよ戦で怪我人を見つけても片っ端から助けようなんて思うんじゃねぇお前が危険に晒されるんだからなそれからそれからそれからそれからそれからそれから、
それから、
「「ありがとう」」
俺と乱太郎の声が、重なった。
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この記事を読んで下さった皆様と、お盆に、生まれ育った場所に帰るすべてのひとたちへ。
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蝉時雨が頭上から礫のように一面に降りしきる中を、俺は一人、馬を走らせていた。体じゅうから汗が滲み出てはとめどなく流れ落ちていく。くすんだ紫色の衣服はすでにぐっしょりと濡れ重くすらなっていたが、気にしている場合ではない。
夏前から始まった長丁場の任務だったが、関所を通るのにずいぶん長い間手間取ってしまい、すでに予定していた帰還日よりも、だいぶ遅れている。
途中の戦場跡で拾った、文字通りどこの馬の骨とも知れない馬に、餌をやり、水をやって機嫌をとり、俺は忍術学園に向けてひた走っていた。
自分以外の4年は組の連中が戦忍として駆り出されていた戦が、無残としか言いようのない様相を呈し、こちら側の完敗で終わったということを、数日前に耳にした。
は組の中で俺だけは機転を買われ、戦忍でなく間諜として他国に赴いていたのだが、万が一、友をすべて失うような状況にでもなっていたらと思うと、それを身の幸いと思うこともできなかった。
自分が一本の矢と化したかと思えるほど苛烈に馬を走らせ、真夏の熾烈な陽光の中を突き抜けてゆくと、とうとう忍術学園の門が見えた。
馬を校門の前に止め、校内に飛び入ると、ふっと、あたりが静寂に包まれた気がした。蝉時雨は先ほどまでと同様、止むことなくあたりに降り注いでいるのだが、人や、生き物の気配がない。
まるで、学園全体が息を止めているかのように、しんとしている。
俺は走って4年長屋に向かい、は組の各部屋を見て回った。
ひとつひとつに顔を突っ込んで覗き込むと、それぞれ書物や武具が積み重ねられていたり、机が端に寄せられたりしている。
しばらくの不在は感じ取れるものの、再び主が戻ることを待ち望む顔で整然と並べられているそれらを見て、まずはほっとした。どうやらみんな、少なくとも件の戦からは戻ってこられたようである。
俺はそのまま、長屋のいちばん端にある、俺と乱太郎としんべヱの部屋に向かった。どういう事情でみんなが不在なのかはわからないが、まずは着物を脱ぎ、井戸水を浴びて、少し休みたい。
しかし、慣れ親しんだ戸を開けて、唖然とした。ここにだけ、他の生徒の部屋にはあるものが、何もないのだ。机も、書物も、手箱も、屏風も、箪笥も、棚も、その他、一切かっさいのもの……生活するのに必要なすべてのものが。
無限に広がっているようにすら見えた空虚な空間を目の前にして、俺はへなへなと座り込んでしまった。この状況が意味することはひとつしかないように思えた。
乱太郎としんべヱは、ここに戻って来なかったのだろう。そして、なかなか連絡がつかなかった俺も、死んだものと思われたのかもしれない。
向こうから、ギィ、と、廊下がきしむ音がした。振り向くと、そこには乱太郎が、青い顔をして立っていた。目に、涙が溜まっていた。
「乱太郎……」
俺は溜息と一緒に魂まで吐き出してしまうのではいかと思うぐらい、深く弱々しい溜息をつきながら、呟いた。
あぁ、もう夏休みなんだ。
それで、
もうお盆なんだ。
乱太郎はきっと、学園に帰ってきたのだろう。
目から、涙が溢れ出してくるのがわかった。悔しさと悲しさがめちゃくちゃな嵐のように胸をよぎったが、しかしそれは、意外にもすぐに収まり、1年坊主だったときの春の日差しのようなあたたかさにとってかわった。
ユーレイでもいい。こうしてもう一度会えたのなら。そう思えたからだ。
その夜俺たちは、食堂に濁り酒があったのをくすねてきて、何もなくなった部屋に明かりを灯し、杯を交わした。乱太郎は言葉は少なく、何かというと俯いて息を詰まらせる。
泣きたいのはこっちも同様なのだが、自分が死んで泣いている相手を前に、それ以上にわんわん泣くのも気が引けた。だから俺はできる限り笑って、酒を飲んだ。
ふと横を見ると、部屋の端に、胡瓜に箸を差してできた馬と、茄子でできた牛が並べて置かれていた。
お盆の日、死者は胡瓜の馬に乗って帰ってきて、茄子の牛に乗って戻っていくという。
誰が作ったのだろう。さっき見たときには気がつかなかったのだが、きっと見落としていたのだろう。乱太郎はこれに乗って帰ってきたのだろうか。
やがて、東の空がしらじらと明るみを帯び始めた。酔いの回った頭で、俺は、あれ? と思う。
死者の霊は、生まれ育った場所に帰るのではなかったか。だったら、乱太郎には家があるはずだろう。
乱太郎は、なぜ学園にいるんだ?
おかしい。
俺は何か、大事なことを忘れていやしないか。
「きりちゃん」
乱太郎の声で、俺はふと我に返った。自分のほうを向いているのではない視線の先を辿ると、長屋に面した裏庭に、黒々とした茄子のような毛並みの牛が凛とした様子で立って、俺をじっと見つめていた。
あぁ。
死んだのは俺のほうだったのか。
乱太郎は知っていたんだ、戦で家を焼かれた俺には、ここしか帰る場所がないってことを。
だから夏休みだというのに家にも帰らず、ここで、胡瓜の馬と茄子の牛を作って、待っていてくれたのだろう。
牛はゆったりとした優雅な足つきで、俺のほうに近づいてきた。さぁ、残念ですが、もう時間ですよ、とでも言いたげな、賢そうな目元だった。
俺は杯を置いて、立ち上がった。
「夏休みになったら、みんなで川に釣りに行こうって約束していたっけ。約束が守れなくて、ごめんな」
俺はまず、別れる前にそれを謝らなければいけないと思った。たぶん、それが俺たちが交わした最後の約束だったからだろう。あれは確か、六月だったか。
長引く戦になりそうだけれど、生きて帰ってこよう、二人とも口には出さなかったけれど、そういう意味を裏に含んでいた。
「仕方がないよ」
乱太郎は物憂げな夏の風が吹きぬけたかのように、寂しそうに相好を崩した。
「この部屋はね、しばらくこうしておいてもらうことにしたんだ」
「じゃ、お前今、誰と同室なんだ」
「庄左ヱ門と伊助。しんへヱは虎若と団蔵の部屋にいる」
「そっか、あいつ、あの熱血コンビについていけるのか」
本当はこんなことが言いたいんじゃなかった。言いたいことは、もっとほかにたくさんあった。たぶん、乱太郎にもあっただろう。
でも、ぜんぶ胸にしまった。
お前はお人好しだから心配なんだよ足の速さですべてが乗り切れるなんて思うなよ戦で怪我人を見つけても片っ端から助けようなんて思うんじゃねぇお前が危険に晒されるんだからなそれからそれからそれからそれからそれからそれから、
それから、
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ごんファイ
一. 文章を書いて生きています。
一. 日本史から入ったタイプなので、落.乱、忍.た.ま以外のアニメ、マンガ、ゲームの話にはついていけないことが多いです。申し訳ない!
一. 日本史から入ったタイプなので、落.乱、忍.た.ま以外のアニメ、マンガ、ゲームの話にはついていけないことが多いです。申し訳ない!
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