a beautiful day for diffusion of a death by exposing it to the elements.
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お題はエタノール×食満。
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保険委員とは言え、こんな夜更けまで、薬棚の整理に付き合わせてしまってすまないね。
おや、少し眠くなってきたかい? 委員長命令だなんて言うつもりはないけど、もう少しだけ、がんばってくれよ。
そうだ、面白い話をしてあげよう。目も覚めるような、不思議な話だよ。
昔、留三郎から聞いた話だ。
あるとき彼が、学園町の言いつけで人跡もまばらな山に薬草を採りに入ったときのこと。彼は不覚にも、山中ですっかり迷ってしまった。
留三郎ともあろう者が、いや、留三郎ともあろう者だから、油断をしていたんだろうね。夕暮れ時が訪れ始めたというのに、下山する手がかりすら掴めずにいた。
焦った留三郎は、僕じゃあるまいし、さらに運の悪いことに、足を滑らせて谷底へ落ちてしまった。不幸中の幸い、命を落とすような深さのものではなかったが、とは言え全身をしたたかに打ってしまい、まっすぐに歩くことがままならない。
夜を越す道具も持ってはなし、さてどうしたものかと思案に暮れている間にも空は刻一刻と暗くなってくる。
すると遠くのほうからかすかに、筝や笙、笛などの楽の音や、杯や皿の触れ合う音、人々が笑い合う声が聞こえてきた。
音が、目に見えぬ細い糸となって、留三郎のところにするすると伸びてきたかのようだった。
こんな山中に怪しいことだと思いながらも、背に腹は変えられない。家があるのか、ならば一宿一飯を願い出ようと痛む足を引きずって音のするほうへ向かうと、果たしてそこには立派な門構えの堂々たる屋敷があった。
すべてのものが色彩を翳らせ、黒い影となって宵闇の中に沈み込もうとしていくなか、門の外から見えるその屋敷だけは、赤々と燃える薪の灯りに彩られ、昼間のような光を放っていた。
留三郎は少し躊躇(ちゅうちょ)したが、鬼が出るにしても妖が出るにしても、山奥で野宿をするよりはましだろうと、思い切ってその中に入った。
入ってすぐに、留三郎は「何かがおかしい」と感じた。
だが、何がおかしいのかは、はっきりとしない。
しかし、人気の無い中庭を抜け、屋敷の入り口まで歩いてくると、留三郎はやっと、その違和感の正体に気がついた。
門のあたりから見たときにはよくわからなかったのだけど、すべてのものが異様に小さいんだ。そこはまるで、子どものままごとのために作られたような場所であり、建物だった。庭に咲き乱れる芥子の花の一本一本までが、彼の手のひら程度の大きさしかない。
玄関近くまで来はしたものの、中から聞こえる賑々しい声を前にしつつ、留三郎は立ちすくんでしまった。
すると数秒もせぬうちに、気配に気がついたのか、玄関に使用人と思われる人が出てきた。
……いや、人かどうかはわからない。
何しろその人、というのは、使用人の風体の癖に、貴人のように顔を扇でしっかりと隠していたんだ。
その扇の形というのがまた気味が悪くて、大きな蛾のようだった。
というか、大きな蛾そのものとしか思えなかった。
そしては背丈は、やはりというか、留三郎の腰程度までしかなかった。
使用人らしきそいつは留三郎に、何か用かと尋ねた。
留三郎はここまで来たら、ままよ、と思い、山中で迷ったゆえ、一宿一飯を求めたい旨を素直に述べた。
使用人は頷き、主に尋ねてくると言い残し、屋敷の奥へ消えた。
留三郎はこの間(かん)に逃げようかとも考えたが、使用人はすぐに戻ってきてしまった。
そして、じつは今日は縁日(えんにち)の目出度(めでた)き日、主人がぜひ歓待したいと言っているので、どうぞ上がって下さいと言う。
留三郎は少し迷ったけれど、異形なれどそんなふうに言われたら断るのも悪い気がしたし、もしいざということがあっても、この使用人のように小さき者たちであれば、力でねじ伏せることもできようと、屋敷に上がることにした。
使用人の後に続いて歩いた廊下の天井は低く、留三郎は頭を打たないようにするために少しかがまなくてはいけなかった。
両側の壁には、灯がわりに、ほぼ一間(約1.8メートル)ごとにホタルブクロの花が掛けられ、その中に入れられた蛍の青白い光が、ぼんやりと行く先を照らし出していた。(夏でもないのに!)
内から楽の音や笑い声が聞こえてくる、襖で閉ざされたいくつかの部屋を横目に見ながら、やがて留三郎は奥座敷に行き着いた。
座敷に足を踏み入れると、留三郎は思わず悲鳴をあげそうになった。
奥に細長く伸びる座敷には、向こうまでズラリと小さな膳が並べられていたが、その前に正装して座っている小さな人々は皆一様に、使用人と同じように蛾の形の扇で顔をしっかりと覆っていた。
蛍を中に何匹も入れた薄い麻袋を行灯のようにしたものが壁に沿っていくつか点々と置かれ、ものうげに揺れるその光に照らされて、座敷一面、数え切れぬほどの大きな蛾が、ふわふわと舞っているようだった。
奇怪、としか言いようのない光景だった。
奥の奥、上座のほうを見ると、主人と思える恰幅のいい男(でもやはり小さかった)が、他と同じく蛾の扇で顔を隠しつつも、悠々と座っていた。
その背後には、この場とは対照的な明るい昼の海を描いた六面屏風が広げられている。のどかなその絵は、なんだかひどく場違いなものにも感じられた。
主人は家人に命じ、自分の隣に留三郎の席を作らせた。
小さな膳と杯を前に、留三郎はまわりに合わせる様に、背中を曲げて小さく縮こまって座った。
あまりの奇怪さに心臓がばくばくと鳴っていたが、だが、もはやここまで来たら、逃げようという気にはならなかった。
すぐに酒肴が運ばれてきたが、それを見て彼はまた仰天した。
うつくしく盛り付けされてはいたが、膳の上に載っているのは、青々とした桑の葉ばかりだったんだ。
中には蚕が食いついている葉もあった。
祝いの日じゃ、遠慮のう食え、という主人の勧めを、留三郎は辞退するしかなかった。
主人は残念そうに、ならば所望のものをひとつだけ述べよ、と尋ねた。
留三郎は山中で迷った末に怪我をした事情を話し、少しでも傷を落ち着かせて明日の朝には出立したいゆえ、一晩の静かな床(とこ)をお借りできればそれに越したることはない、と答えた。
すると突然、
「……ーる」
「……たのーる」
「えたのーる」
「えたのーる」
座敷に並んで座っていた小さな人々が、一斉に噂話でも始めたかのように、蛾の扇で隠した顔を寄せ合って、ひそひそと不思議な言葉を囁き合った。
その聞きなれない言葉はいったい何のことかと留三郎がいぶかしんでいると、人々はいきなり手に手に酒盃を掲げて立ち上がり、おもむろに留三郎に近づくと、中に入っていた透明な、何かきついにおいのする液体を、くすくす笑いながら、つぎつぎ彼にぶっかけた。
途端に、液体が体じゅうの傷に染みて激痛に見舞われ、留三郎は気を失った。
翌朝、留三郎は小鳥の鳴く声で目を覚ました。
彼は、山の中の少し開けたところに大の字になって寝転がっていた。
あたりを見回すと屋敷らしきものは影も形もない。
昨日の傷はすっかり治っていて、跡が少し残っているばかりだった。
不思議に思いながらもとにかく歩き始めると、昨日なぜあれほど迷ったのかと思えるほどに、あっさりと麓まで辿り着くことができた。
忍術学園に戻ってきて、留三郎は学園長に、薬草を渡しがてらその話をした。
学園長は、それはきっとスクナヒコナの一族だろう、とだけ言って、あとは何も教えてくれなかったそうだ。
その後、留三郎は、そんな神水のような液体があったらきっと僕が喜ぶだろうと、僕には内緒でこっそり何度かその山に入ってくれたらしい。
だが彼は、二度と件(くだん)の屋敷にはたどり着くことができなかった。
保険委員とは言え、こんな夜更けまで、薬棚の整理に付き合わせてしまってすまないね。
おや、少し眠くなってきたかい? 委員長命令だなんて言うつもりはないけど、もう少しだけ、がんばってくれよ。
そうだ、面白い話をしてあげよう。目も覚めるような、不思議な話だよ。
昔、留三郎から聞いた話だ。
あるとき彼が、学園町の言いつけで人跡もまばらな山に薬草を採りに入ったときのこと。彼は不覚にも、山中ですっかり迷ってしまった。
留三郎ともあろう者が、いや、留三郎ともあろう者だから、油断をしていたんだろうね。夕暮れ時が訪れ始めたというのに、下山する手がかりすら掴めずにいた。
焦った留三郎は、僕じゃあるまいし、さらに運の悪いことに、足を滑らせて谷底へ落ちてしまった。不幸中の幸い、命を落とすような深さのものではなかったが、とは言え全身をしたたかに打ってしまい、まっすぐに歩くことがままならない。
夜を越す道具も持ってはなし、さてどうしたものかと思案に暮れている間にも空は刻一刻と暗くなってくる。
すると遠くのほうからかすかに、筝や笙、笛などの楽の音や、杯や皿の触れ合う音、人々が笑い合う声が聞こえてきた。
音が、目に見えぬ細い糸となって、留三郎のところにするすると伸びてきたかのようだった。
こんな山中に怪しいことだと思いながらも、背に腹は変えられない。家があるのか、ならば一宿一飯を願い出ようと痛む足を引きずって音のするほうへ向かうと、果たしてそこには立派な門構えの堂々たる屋敷があった。
すべてのものが色彩を翳らせ、黒い影となって宵闇の中に沈み込もうとしていくなか、門の外から見えるその屋敷だけは、赤々と燃える薪の灯りに彩られ、昼間のような光を放っていた。
留三郎は少し躊躇(ちゅうちょ)したが、鬼が出るにしても妖が出るにしても、山奥で野宿をするよりはましだろうと、思い切ってその中に入った。
入ってすぐに、留三郎は「何かがおかしい」と感じた。
だが、何がおかしいのかは、はっきりとしない。
しかし、人気の無い中庭を抜け、屋敷の入り口まで歩いてくると、留三郎はやっと、その違和感の正体に気がついた。
門のあたりから見たときにはよくわからなかったのだけど、すべてのものが異様に小さいんだ。そこはまるで、子どものままごとのために作られたような場所であり、建物だった。庭に咲き乱れる芥子の花の一本一本までが、彼の手のひら程度の大きさしかない。
玄関近くまで来はしたものの、中から聞こえる賑々しい声を前にしつつ、留三郎は立ちすくんでしまった。
すると数秒もせぬうちに、気配に気がついたのか、玄関に使用人と思われる人が出てきた。
……いや、人かどうかはわからない。
何しろその人、というのは、使用人の風体の癖に、貴人のように顔を扇でしっかりと隠していたんだ。
その扇の形というのがまた気味が悪くて、大きな蛾のようだった。
というか、大きな蛾そのものとしか思えなかった。
そしては背丈は、やはりというか、留三郎の腰程度までしかなかった。
使用人らしきそいつは留三郎に、何か用かと尋ねた。
留三郎はここまで来たら、ままよ、と思い、山中で迷ったゆえ、一宿一飯を求めたい旨を素直に述べた。
使用人は頷き、主に尋ねてくると言い残し、屋敷の奥へ消えた。
留三郎はこの間(かん)に逃げようかとも考えたが、使用人はすぐに戻ってきてしまった。
そして、じつは今日は縁日(えんにち)の目出度(めでた)き日、主人がぜひ歓待したいと言っているので、どうぞ上がって下さいと言う。
留三郎は少し迷ったけれど、異形なれどそんなふうに言われたら断るのも悪い気がしたし、もしいざということがあっても、この使用人のように小さき者たちであれば、力でねじ伏せることもできようと、屋敷に上がることにした。
使用人の後に続いて歩いた廊下の天井は低く、留三郎は頭を打たないようにするために少しかがまなくてはいけなかった。
両側の壁には、灯がわりに、ほぼ一間(約1.8メートル)ごとにホタルブクロの花が掛けられ、その中に入れられた蛍の青白い光が、ぼんやりと行く先を照らし出していた。(夏でもないのに!)
内から楽の音や笑い声が聞こえてくる、襖で閉ざされたいくつかの部屋を横目に見ながら、やがて留三郎は奥座敷に行き着いた。
座敷に足を踏み入れると、留三郎は思わず悲鳴をあげそうになった。
奥に細長く伸びる座敷には、向こうまでズラリと小さな膳が並べられていたが、その前に正装して座っている小さな人々は皆一様に、使用人と同じように蛾の形の扇で顔をしっかりと覆っていた。
蛍を中に何匹も入れた薄い麻袋を行灯のようにしたものが壁に沿っていくつか点々と置かれ、ものうげに揺れるその光に照らされて、座敷一面、数え切れぬほどの大きな蛾が、ふわふわと舞っているようだった。
奇怪、としか言いようのない光景だった。
奥の奥、上座のほうを見ると、主人と思える恰幅のいい男(でもやはり小さかった)が、他と同じく蛾の扇で顔を隠しつつも、悠々と座っていた。
その背後には、この場とは対照的な明るい昼の海を描いた六面屏風が広げられている。のどかなその絵は、なんだかひどく場違いなものにも感じられた。
主人は家人に命じ、自分の隣に留三郎の席を作らせた。
小さな膳と杯を前に、留三郎はまわりに合わせる様に、背中を曲げて小さく縮こまって座った。
あまりの奇怪さに心臓がばくばくと鳴っていたが、だが、もはやここまで来たら、逃げようという気にはならなかった。
すぐに酒肴が運ばれてきたが、それを見て彼はまた仰天した。
うつくしく盛り付けされてはいたが、膳の上に載っているのは、青々とした桑の葉ばかりだったんだ。
中には蚕が食いついている葉もあった。
祝いの日じゃ、遠慮のう食え、という主人の勧めを、留三郎は辞退するしかなかった。
主人は残念そうに、ならば所望のものをひとつだけ述べよ、と尋ねた。
留三郎は山中で迷った末に怪我をした事情を話し、少しでも傷を落ち着かせて明日の朝には出立したいゆえ、一晩の静かな床(とこ)をお借りできればそれに越したることはない、と答えた。
すると突然、
「……ーる」
「……たのーる」
「えたのーる」
「えたのーる」
座敷に並んで座っていた小さな人々が、一斉に噂話でも始めたかのように、蛾の扇で隠した顔を寄せ合って、ひそひそと不思議な言葉を囁き合った。
その聞きなれない言葉はいったい何のことかと留三郎がいぶかしんでいると、人々はいきなり手に手に酒盃を掲げて立ち上がり、おもむろに留三郎に近づくと、中に入っていた透明な、何かきついにおいのする液体を、くすくす笑いながら、つぎつぎ彼にぶっかけた。
途端に、液体が体じゅうの傷に染みて激痛に見舞われ、留三郎は気を失った。
翌朝、留三郎は小鳥の鳴く声で目を覚ました。
彼は、山の中の少し開けたところに大の字になって寝転がっていた。
あたりを見回すと屋敷らしきものは影も形もない。
昨日の傷はすっかり治っていて、跡が少し残っているばかりだった。
不思議に思いながらもとにかく歩き始めると、昨日なぜあれほど迷ったのかと思えるほどに、あっさりと麓まで辿り着くことができた。
忍術学園に戻ってきて、留三郎は学園長に、薬草を渡しがてらその話をした。
学園長は、それはきっとスクナヒコナの一族だろう、とだけ言って、あとは何も教えてくれなかったそうだ。
その後、留三郎は、そんな神水のような液体があったらきっと僕が喜ぶだろうと、僕には内緒でこっそり何度かその山に入ってくれたらしい。
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プロフィール
ごんファイ
一. 文章を書いて生きています。
一. 日本史から入ったタイプなので、落.乱、忍.た.ま以外のアニメ、マンガ、ゲームの話にはついていけないことが多いです。申し訳ない!
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